仮差押えを受けたことにより百貨店から取引を中止され損害を被ったとの主張が認められなかった事例(最判平成31年3月7日)

1 はじめに

 債権回収に関し、理解しておくべき判決がなされたので、ご紹介します。

 事案は、売掛金の回収のため、取引の相手方の百貨店に対する売掛金を仮差押えしたところ、その仮差押えのために百貨店から取引を打ち切られたとして、取引の相手方から逆に損害賠償請求された、というものです。

 結論としては、取引の打ち切りについての損害賠償請求は認められませんでしたが、どのような理屈によるのかは、よく把握しておく必要があります。売掛金の回収方法にも影響のある議論と思われます。

2 事案の概要

 判決文及び日本経済新聞電子版の記事によると、事案の概要は以下のとおりです。

(1)印刷会社A社は、雑貨の販売等を業とするB社に対し、印刷物等の代金約2800万円の支払を求めましたが、B社は、発注どおりに仕上がっていないなどとして支払を拒みました。そこで、A社が、代金の支払を求めてB社を提訴しました。

(2)第一審は、A社の請求を約1300万円の限度で認めました。なお、A社は、仮執行宣言の申立てをしていなかったため、第一審判決に仮執行宣言は付されませんでした(注)。

(3)その後、A社・B社とも控訴しました。

 また、A社は、この段階で、B社の有する百貨店C社に対する売掛金債権について、仮差押えをしました。これに対し、B社は、即座に供託をして、この仮差押えの執行を取り消してもらいました。さらにその後、保全の必要性(判決の確定を待たずに仮に差し押さえる緊急の必要性)がないとして、仮差押命令自体が取り消されました。

 この仮差押え以降、C社との新たな取引がなくなったことから、B社は、A社が違法な仮差押えをしたために、信用が毀損され、C社との取引により得られたはずの利益を得られなくなったとして、控訴審において、A社に対し損害賠償請求をしました(A社の債権との相殺も主張。)。

(4)控訴審は、本件の仮差押えは当初から保全の必要がなかった違法なもので、不法行為に当たり、B社はそのために少なくともC社との取引による3年分の利益を得られなかったとして、B社の主張を認めました。

(5)これに対し、最高裁は、次のように述べ、本件の仮差押えとB社の逸失利益との間には相当因果関係がないと判断しました。

・仮差押え前は、B社は、C社との間で、1年4か月間に7回にわたり商品の売買取引を行ったが、売買取引を継続的に行う旨の合意があったとまでは認められない。

・C社からB社に対する取引の打診は頻繁にあったものの、実際に取引に至ったのは7回にとどまり、また、4~5か月にわたって取引がない期間もあった。そうすると、B社において、C社との売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できたとまではいえない。

・そうすると、仮差押えの当時、B社が、その後もC社と従前同様の取引をすることにより利益を取得することを具体的に期待できたとはいえない。

・C社も、新たな商品発注を行わない理由として、仮差押えがあったことを特に挙げていたわけではない。

3 弁護士のコメント

 最高裁は、B社の逸失利益以外の相当因果関係ある損害について審理を尽くさせるため、本件を控訴審に差し戻しました。そのことや、控訴審が指摘した不法行為性を特に否定していないことからして、本件の仮差押えは不法行為に当たるとの前提に立っていると考えられます。

 仮差押えは、あくまで暫定的な措置であるため、後日訴訟で判断が覆されることがあり得ます。その場合、仮差押えの申立人は、その相手方に対し、原則として損害賠償責任を負うことになります(一応、過失があって初めて損害賠償責任を負うのですが、原則として申立人の過失が推定されます。)。A社についても、そのように判断されたものと思われます。

 不法行為となることを恐れて必要な仮差押えを見送るべきではありませんが、仮差押えをする際にはよく気を付ける必要があります。また、本件では、B社はC社との取引継続を具体的に期待できたとはいえないと認定されていますが、これを期待できたと認定される場合もあり得ると思われます。

 見極めが難しい場合もあると思われますが、仮差押えにはリスクが伴う場合もあることは、ご理解いただけたらと思います。

 

(注)仮執行宣言とは、財産権上の請求権に関する判決について、判決確定前であっても仮に強制執行をすることができるものとする裁判所の判断のことをいいます。本来は判決確定後でないと強制執行できませんが、上訴がなされると確定まで時間がかかるため、このような制度が設けられています。特に、敗訴当事者には勝ち目がないのに、専ら強制執行の引き延ばしのために上訴する、ということを防止する意味があります。

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