<最高裁判例のご紹介:最高裁令和4年1月28日判決>  ~民法改正に関連して、離婚に伴う慰謝料の遅延損害金の利率が年3%か年5%かが争われた事例~

 令和2年4月1日から改正民法が施行され、遅延損害金の利率が変更となりました。

 すなわち、遅延損害金の利率は、改正前の民法では別段の意思表示がないときは年5%、改正後は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める(ただし、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による。)とされ、法定利率はさしあたり年3%とされています。

 また、民法の一部を改正する法律において、「施行日に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については・・・なお従前の例による。」と規定されていて、「従前の例」とは改正前の年5%を適用するという意味になります。

 このため、改正の施行前後にまたがるトラブルの場合、事案の内容によっては、債務者がいつ遅滞の責任を負ったのかにより遅延損害金の利率が年3%なのか年5%なのかが変わるため、遅滞の責任を負った時期に争いの余地があるのです。

 

 今回は、この「施行日前に債務者が遅滞の責任を負った」といえるかどうかが、実際の離婚の裁判で問題となった事例を紹介します。ただならぬニッチな香りが漂いますが、勢いでまいります。

 

 事案は、民法改正の施行日にまたがって婚姻関係にあった夫婦が、互いに離婚を求めて裁判となり、最高裁の判決(改正施行後)により離婚に至りました。

 その離婚裁判の中で、一方当事者であるXさんは,他方当事者のYさんに離婚の責任があるとして慰謝料請求をしたのですが、Yさんに離婚の責任があるかどうかや慰謝料額をいくらと評価するかという問題とはまた別に、その慰謝料の遅延損害金の利率が年5%(←施行日前に債務者が遅滞の責任を負った)なのか年3%(←施行日後に債務者が遅滞の責任を負った)なのかが問題となりました。

 

 原審は、「債務者が遅滞の責任を負った」時期を、婚姻関係が破綻した時点と実質的に捉え、この事案で婚姻関係が破綻した時期は令和2年4月1日の施行日以前であると認定して、慰謝料の遅延損害金の利率を改正前の年5%と判断しました。

 

 しかし、最高裁は、この事例での慰謝料の性質は「離婚に伴う慰謝料」と理解した上で、「離婚に伴う慰謝料請求は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり、このような損害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、その請求権は、当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥るものである。したがって、離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。」と判示し、前述の「債務者が遅滞の責任を負った」時点は離婚成立時点(=離婚を認容する判決の確定時)だとして、その時点が改正の施行日以後であることから、遅延損害金の利率を年3%と判断しました。

 

 筆者は、原審の判断によれば、今後の実際の離婚訴訟において、損害賠償請求権の有無・金額のほかに、「いつ婚姻関係が破綻したか。」という、客観的な評価が極めて困難な点についての攻防・判断を余儀なくされることや、施行後相当期間が経過しても「夫婦関係の破綻した時期は改正施行日以前だから、慰謝料の遅延損害金利率は年5%である。」という主張が成り立ちうることによる訴訟の長期化・複雑化という問題があるため、これらの現実的な問題を回避でき、遅滞時期を画一的・機械的に決定づけることができる最高裁の判断を歓迎します。

 ただし、この最高裁の判断は、今回の事例の慰謝料請求の性質が「離婚に伴う」慰謝料であるということを前提にしています。仮に慰謝料の性質が、離婚に伴う慰謝料ではなく、不法行為そのものにより生じた慰謝料(例えば、この事例とは関係なく、不貞行為そのものに対する慰謝料)や婚姻関係が破綻したことによる慰謝料と捉えられる場合には、今回と異なる判断がなされうることには注意が必要です。

 

 このような、改正にまつわる解釈・適用に関する裁判例が出始めると、私たちも知識の整理・更新が必要となってきます。

 皆様におかれても、改正が絡む問題については、インターネットに掲載されている情報等が現在の法律に則っているかどうか、抱えておられるご自身のトラブルがご覧のインターネットの情報等で解決されるものなのかどうかについては、今一度ご注意いただく必要があると考えます。

 ご心配のことがありましたら、お気軽にご相談下さい。

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