民法改正~番外編「相続法改正について」~

以前のブログでも,その一部について言及していますが,平成30年7月6日に成立した改正相続法につき,本年1月13日から既に施行されている自筆証書遺言の方式の緩和に続き,以下の改正が本年7月1日から施行されます。なお,条文の引用は全て改正法です。

 

1 遺産分割前の預貯金の払戻し

 これまで,被相続人名義の預金を引き出すには,相続人全員の同意が必要とされていましたが,改正法によって,相続開始時の残高の3分の1に払戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額までであれば,単独で払戻しを受けられるようになりました(909条の2)(ただし,1つの金融機関につき150万円が上限とされています。)。

 

2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合について

 改正法により,遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合でも,共同相続人全員が同意すれば,当該財産が遺産分割の時点でも遺産として存在するとみなすことができるようになりました(906条の2第1項)。ただし,共同相続人の一人または数人により処分がされたときは,その相続人の同意がなくても,他の共同相続人が全員で同意すればよいこととされました(906条の2第2項)。

実務的には,本来遺産分割の対象外である財産であっても,相続人全員が同意をすれば,遺産分割の対象とすることは可能でした。そのため,実務的な影響が大きいのは,後者の906条の2第2項の規定といえます。

 

3 寄与分

 寄与分とは,被相続人の財産の維持や増加に貢献をした場合に,法定相続分より多く相続財産を取得することを認める制度です。寄与分は相続人しか認められないため,相続人の配偶者が面倒を看るなどしても(その相続人の寄与分において配偶者の寄与を考慮した裁判例もありますが),寄与分は認められません。

 改正法では,被相続人の(相続人でない)親族について,一定の要件をもとで特別寄与料支払いを請求できることになりました(1050条)。

 

4 遺留分

 遺留分とは,法律によって相続人に保障されている一定割合の相続財産です。この遺留分を侵害する遺言は,遺留分減殺請求権を行使されると,その限度で効力を失います。改正前の民法では,遺留分減殺請求権の効果として,現物返還が原則になると考えられていました。

 改正法では,遺留分侵害額に相当する金銭を請求する権利である「遺留分侵害額請求権」としています(1046条第1項)。なお,遺留分侵害額請求を受けた側がすぐに金銭を用意できない場合等には,請求を受けた受遺者または受贈者の請求により,裁判所は相当の期限を許与することができるようになっています(1047条第5項)。

 この他にも,改正法により遺留分侵害額の計算方法も明確化されていますが,この点については追って説明したいと思います。

 

5 相続によって承継した権利の対抗要件

 判例によれば,遺産分割や遺贈によって,法定相続分と異なる割合で不動産を承継した場合,登記がなければ第三者に対抗できないとされていますが,相続分の指定や「相続させる」遺言による不動産の権利承継の場合は,登記なくして第三者に対抗できるとされていました。しかし,この場合,法定相続分に従った権利承継があったという第三者の信頼が犠牲となる結果になってしまいます。

 そこで,改正法では,相続による権利承継一般につき,相続分の指定や「相続させる」遺言についても,遺産分割による場合と同様に,法定相続分を超える部分の取得については対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとしています(899条の2)。

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