民法改正について~第5回~

2019年4月26日

 民法改正についての記事も5回目となりました。これまでの記事で、主要な改正事項は網羅したと思います。しかし、今回の改正は非常に大規模なものであり、他にも多くの改正点があります。

 そもそも、今回の民法改正は「社会・経済の変化への対応」の観点と「国民一般に分かりやすい民法」とする観点から改正項目が検討されており、これまでの記事では、前者の観点による改正事項について説明をしてきました。

 今回は、後者の観点からの改正事項に触れたいと思います。とは言っても、「国民一般に分かりやすい民法」とする観点からの改正事項は、現行民法の条文上は明らかではないものの、判例の積み重ねや解釈によって運用されてきた基本的なルールを明文化したものであり、実務に携わっている者にとっては当然のことであり、実質的な変更はないと言えます。以下で代表的な点について簡単に触れたいと思います。

 

1 意思能力制度

(1) 意思能力(行為の結果を理解することができる能力)が無い者がした法律行為は無効であることは判例・学説上異論ありません。現行民法には、このことを定めた規定がありませんが、改正民法では、このことを明文化しています。

(2) また、現行民法では、「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」と規定しています。錯誤とは、真意と異なる意思表示をした場合です。例えば、ある物を買うつもりがないのに、その物を購入する旨の意思表示をした場合です。

 そして、無効と似て非なる概念として、法律行為の「取消」があります。何が違うかと言いますと、無効は誰でも主張することができ、その期間に制限はありませんが、取消はその意思表示をした本人しか主張できず、期間も5年間に制限されます。

 ここで、錯誤と同様に、意思表示に問題がある場合として、詐欺が規定されていますが、詐欺の場合は無効ではなく、取消とされています。この点、錯誤と詐欺を比較して、より落ち度の低い詐欺の場合には取消しかできないのに対し、落ち度の高い錯誤の場合には無効主張できるというのはバランスを欠くという指摘がされてきました。

 そこで、改正民法では、錯誤の効果を無効から「取消」に変更しています。これにより、法律行為の効果を否定できるのは誤解をしていた本人のみに限られ(この点は従前から判例解釈が示されていたところです。)、法律行為の効果を否定できる期間も限られることになります。

(3) なお、錯誤の要件について、現行民法上は前述のような簡素な文言だったのが、判例によって、より詳細な要件が示されていました。改正民法は、従前の判例の示していた要件を明文化することによって、「国民一般に分かりやすい民法」の観点からの改正も加えています。

 

 他の改正点(「2」以降)については、次回以降の記事で、可能な限り触れていきたいと思います。

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2019年4月26日民法改正