【横浜 相続】自筆証書遺言ブーム? ~法務局による自筆証書遺言の保管制度~

2019年4月26日

1 現在の自筆証書遺言のぜい弱性

 

 遺言の方式のひとつに自筆証書遺言があります。
 遺言の全文,日付,氏名を自書し,これに印を押して作成しなければなりません。
 この形式を満たしていなければ遺言が無効となるため,形式面でその有効性が問題となることがあります。
 

 例えば,

 

① 日付を,「平成30年12月吉日」と書いた。
→ 「吉日」が暦を特定するものとはいえず無効とした裁判例があります。

 

② 日付を,「アタシの満60歳の誕生日♪ウフフ♪」と書いた。

→ 相続人がクスっとしてくれるかどうかはともかく,戸籍から日付が特定できるので問題ないと考えられています。

 

③ ちょうどいい紙がなかったので,何でもよいと思い新聞の折り込みチラシの裏に書いた。
→ 形式的には問題ありません。

 

④ 手が不自由になったので,妻の介助を受けながら手書きした。
→ 類似の事例で,介助者の誘導があるため自書といえず無効とした裁判例,介助者の意思が介入した形跡がないとして有効とした裁判例があります。

 

⑤ 遺言の内容は手書きしたが,財産目録をワープロで作成した。
→ 全文を自書していないので無効です(ただし,民法改正により,平成31年1月13日からは,財産目録の全頁に署名押印があれば,財産目録自体は自書でなくても有効とされます。)。

 

⑥ 遺言書に捺印をし忘れたままびっちりと封をしてしまい,開封するのが面倒だったのでそのまま封筒に捺印した。
→ 同様の形式で,封がされており,遺言書と封筒の一体性があるので有効とした裁判例があります。

 

⑦ ハンコが見当たらなかったので,拇印を押した。
→ 有効とした裁判例があります。

 

といったものが挙げられます。

 

 遺言が有効か無効かは,性質上ゼロか100であり,紛争当事者間で穏便に間をとって解決しましょうということができませんし,有効無効の判断によって相続の内容が一変することも多いため,ひとたび遺言の有効性が問題になると裁判所の判決が確定するまで長期にわたり激しく争われるということが少なくありません。
 自分の死後に家族が揉めないようにとせっかく遺言を作成したのに,その遺言のちょっとした形式が問題で,家族が激しい紛争に巻き込まれてしまいかねないのです。

 

 加えて,自筆証書遺言は自宅で保管されることも多く,紛失,廃棄,盗難,隠匿,改ざんのおそれもあります。
 それを見つけてしまった家族から,「ちょっとアンタ。私がこんなに長年尽くしてきたのに,なんで私の取り分がこんなに少ないのよ。ハイ,やり直し。」と迫られるなんてことも…。

 

 最後の点はともかく,このようなことから,従来我々としては,自筆証書遺言よりも公正証書遺言を作成した方がのちのち有効性に問題が生じるリスクが低いですよ,紛失等のおそれもありませんよ,公正証書遺言は公証役場の検索システムがあるので自筆証書遺言に比べて誰にも発見されないリスクも低く相続人も便利ですよ,などと,基本的には公正証書遺言を推奨しておりました。

 

 ただ,公正証書遺言は,自筆証書遺言に比べて時間と費用と手間がかかるとされる点や,2名の証人には自分の遺言の内容が知られてしまうといった点から,敬遠される方もいらっしゃるように思います。

 

2 自筆証書遺言に関する新制度の発足

 

 しかし,ここで(すみませんようやく本題ですが),

 平成30年,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定され,7月13日に公布されました。2年以内に施行とされています。

 この法律は,簡単に言えば,自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度を定めたものです。そのままです。

 

 特徴的な点を挙げると,

 

①法務局の書式で作成したものに限られる。
→ 日付に「ワシの満80歳の誕生日♪ウェーイ♪」とか書いたら,きっと「真面目にやってくださいね。」と言われると思いますが,そんなこんなで形式面に問題のない自筆証書遺言が作成できます。

 

②保管の申請は,遺言者本人が法務局に行って行う。
→ 本人の意思によるものであることが相当程度担保されます。

 

③法務局により保管される。
→ 紛失のおそれがありません。たぶん。

 

④遺言者生存中は,遺言者以外の方が閲覧請求することはできない。
→ 他人に改ざんされるおそれがありません。

 

⑤遺言者死亡後,相続人の1人から閲覧請求等がされた場合は,法務局は他の相続人,受遺者,遺言執行者に自筆証書遺言を保管している旨を通知する。
→ 他の相続人らが遺言の存在を認識しやすくなります。

 

といったものです。

 

 保管の申請や閲覧の請求などの際に手数料がかかるとされ,その手数料の金額はまだ定められていない(政令で定める。)と思われることなど,いまだ全容が明らかになったとは言えません。
 また,この法律には遺言能力(これを欠く状態で作成された遺言は無効となります。)を担保したり確認したりする規定はなく,この制度が遺言能力の紛争に与える影響の有無・大小は制度発足後の判例の集積を待たなければならないと思われます。
 ただ,少なくとも,遺言の形式面,遺言者本人の意思,遺言書の保管の問題など,これまでの自筆証書遺言のぜい弱であった部分を大きく強化するものであると考えられます。

 

 というわけで,この制度が円滑に走り始めると,これまで遺言の作成をためらっていた方ももう少し気軽に,となるかもしれませんね。
 我々も将来的には,複雑な内容でなければ自筆証書遺言を作成して法務局に預けておくことをお勧めするようになるかもしれません。では。

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2019年4月26日相続