使用者責任と使用者・被用者間の求償関係について

1 民法715条は、いわゆる使用者責任について定めた規定です。具体的には、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められています(同条1項本文)。これは、直接の加害者である被用者には資力がないことが多いため、被害者保護の観点から規定されたものです。

  そして、その法的性質については、「使用者は被用者を使って利益を上げているから、被用者がその事業の執行について第三者に損害を与えた場合にはその損害を賠償すべきである」「使用者は被用者の行為によって加害の危険も発生させているから、危険が現実化すればその責任を負うべきである」などといった考えに基づき、被用者の不法行為責任を代わりに負うこととするものであると考えられてきました(代位責任説)。

  実際、被用者の行為により損害を受けた第三者がこの規定によって救われるケースは、多数あります。

2 では、被害者への損害賠償がなされた後、使用者と被用者との間では、何らかの精算がなされるのでしょうか。また、精算がなされるとして、どのような精算がなされるのでしょうか。

3 使用者と被用者との間に共同不法行為(民法719条)も成立する場合には、使用者と被用者は、被害者に対し、各自、損害の全額について賠償責任を負います(連帯責任)。この場合において、使用者と被用者の一方が、被害者に対して自らの負担割合(共同不法行為者間での責任分担の割合)を超えて賠償した場合には、もう一方に対し、自らの負担割合を超えて賠償した分を求償することができると解されています。

4 これに対し、使用者と被用者との間に共同不法行為の成立までは認められない場合(使用者責任のみ成立する場合)はどうでしょうか。

(1)この点、冒頭に述べたような考え方を貫くと、「不法行為者である被用者が、本来、損害の全部を賠償すべきであって、使用者責任は、被用者の不法行為責任を使用者に肩代わりさせたものにすぎないから、使用者には負担部分はない」ということになるようにも思えます。そうだとすれば、使用者から被用者への求償はできるけれど、被用者から使用者への求償はできないという結論になりそうにも思えます。

(2)しかし、使用者から被用者への求償は、被用者の使用者に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使として認められています(なお、これに関する民法715条3項は、求償権の根拠規定ではなく、このような損害賠償請求が可能であることを注意的に定めた規定と解されています。)。

   ただし、最高裁は、損害の公平な分担の見地から、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」として、使用者の被用者に対する求償権の行使を一定程度制限しています(最判昭和51年7月8日)。

(3)また、被用者から使用者への求償についても、最高裁は、「この解説記事の冒頭に述べたような考え方は、損害の公平な分担という見地に基づくものであるから、使用者は、第三者に対する関係において損害賠償義務を負うだけでなく、被用者との関係においても、損害の全部または一部について負担すべき場合がある」「使用者が先に被害者に賠償した場合には上記の最判昭和51年7月8日のように解すべきだが、被用者が先に被害者に賠償した場合にこれと異なる結果になるとしたら、それは相当でない」などと述べた上で、「被用者は、最判昭和51年7月8日で示された諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる」と判断しています(最判令和2年2月28日)。

   なお、この判決の補足意見では、使用者と被用者の主従関係、資力の相違その他の事情次第では、被用者の負担部分は僅少なものとなることも多く、事案によってはこれをゼロとすべき場合もあり得る、などといった注目すべき指摘もなされています。

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