「送達」について
今回は地味ですが、大事な「送達」についてのお話です。
「送達」とは
「送達」とは、裁判所が当事者その他の訴訟関係人に対し、法定の方式に従い、訴訟上の書類 を交付し、又は交付を受ける機会を与えることを言います。
裁判を起こすには、訴状等が相手方に「送達」されなければなりませんが、これは相手方に反論の機会を与え、その裁判を受ける機会を保障することによって、適正公平な裁判を実現しようとするものです。そのため、「送達」には方式が定められています。具体的には、郵便配達人が訴状等を配達し、名義人に対して直接手渡して、裁判所に報告書を提出します。これを「特別送達」と言います。
先ほど述べたとおり、「送達」は相手方の裁判を受ける権利を保障するものですが、他方で、相手方が、訴状等を受け取らない、受け取れない場合に一切裁判を起こせないとなると、今度は訴えた方の裁判を受ける権利が実現できません。
「送達」の種類
単に相手方が不在にしているだけであれば、不在票が入るので、後日郵便局で送達を受けることができます。しかし、相手方が不在票を無視したり、居留守を使ったりして、送達ができなかった場合は、休日に送達してもらうか、相手方の就業場所に送達することを検討することになります。
それでも相手方が受け取らない場合、あるいは住所地に住んでいることは確実だが受取を拒否しているような場合には「書留郵便による送達」を行ってもらうことになります。この場合は、裁判所から訴状等が発送された時点で(現実に相手方が受け取らなくても)「送達」されたことになります。
他方で、相手方が住民票所在地に住んでおらず、転居先も不明な場合には、最後の手段として「公示送達」という方法がとられます。これは裁判所の掲示板に公示送達の公告を行い、相手方に書類を受け取ることを促すものです。公示送達は「当事者の住所、居所、その他送達をすべき場所が知れない場合」等に行うことができますので(民事訴訟法110条1項1号)、訴える側で調査を行い、裁判所に報告をすることが必要となります。
裁判例
公示送達に関して、令和7年7月10日の大阪高裁判決は新しい考え方を示しました。当事者の住所等につき「公示送達の申立人が主観的にこれを知らないだけでなく、当該具体的な事情の下で通常期待される手段を尽くして探索したが分からない場合であることを要する」としたのです。
この事案では、相手方が複数のSNSのアカウントを有しており、誰とでもメッセージをやり取りすることができる設定としていたことから、公示送達の申立人は、訴えたことをSNSで知らせることができたようです。申立人がそれをしなかったため、高裁判決は、送達すべき場所が知れないことの疎明がないまま公示送達を実施したものとして、不適法であり、したがって、原審の手続及び判決を違法とし、差し戻しました。
もともとの請求が、相手方がインターネットで公開した動画が名誉毀損に該当することを理由とする損害賠償請求であったものの、この裁判例の考え方からすると、請求がネット関連でなくとも、相手方のSNSのアカウントを知っていた場合は、当該SNSについても調査報告をしなければ公示送達が行えないことになると思われます。地味に実務への影響が大きいので、最終的にどのような結論になるのか見守りたいと思います。

