遺言能力とは
1 有効な遺言を作成するためには、遺言の方式に従うことが必要ですが、遺言者に、遺言内容を理解し、遺言の結果を認識できるだけの判断能力(これを遺言能力と言います。)があることも必要です。
では、具体的にどのような場合に遺言能力があるとされるのでしょうか。この点、認知症であるというだけで遺言能力が否定されることはありません。目安としては、認知症の評価によく用いられる長谷川式簡易知能評価スケールで30点満点中10点以下の場合は、遺言能力が否定される場合が多いと言えます。
ただ、これもあくまでも目安であり、裁判例を見ると、13点で公正証書遺言が無効とされたケースもあれば、4点でも有効とされているケースもあります。
これは、遺言能力の有無の判断が、精神上の障害の有無・程度だけでなく、遺言内容や遺言作成に至る経緯、相続人や受遺者との人的関係などの総合考慮に基づくものであるためです。例えば、「全財産をAに相続させる。」といった単純簡明な内容であれば、遺言者の判断能力が低い場合であっても遺言能力が認められやすくなります。逆に、この場合で、遺言者が生前Aと疎遠であって、多額の遺産を相続させる動機がなければ、遺言作成に至る経緯が合理的でないとして遺言能力が否定される方向に傾くことになります。
2 このように、遺言能力の有無については、様々な事情に基づいた複雑な判断を要します。それでは、遺言能力が微妙であって、後に遺言の有効性が争われる可能性がある場合に備えて、どのような対応が考えられでしょうか。
まず、やはり公正証書遺言の方が、公証人のチェックが入ることから、自筆証書遺言よりは信用性が高いと言えます。
そして、遺言能力の有無は法的判断だとしても、医学的観点は重要な要素ですので、主治医の診断を受け、長谷川式簡易知能評価スケールも実施しておくのが望ましいでしょう。加えて、遺言者自身が日記などで日常の生活状況を記録しておいたり、家族等が遺言者の普段の様子や会話の内容を、ある程度の期間ビデオや録音で残しておくことも考えられます。実際に遺言の有効性が争われる場合には、カルテや介護記録なども参照されますが、同じように重要な判断材料となるものと言えます。
遺言作成の際に遺言能力に疑義がある場合や、作成された遺言の有効性を争うような場合には、一度弁護士へ相談していただくことをおすすめします。