再転相続と相続放棄

1 再転相続とは

  再転相続というのは、相続(一次相続)が発生した際、相続人が被相続人の相続を承認するか放棄するかの選択をしないまま死亡してしまい、新たに発生してしまった相続(二次相続)のことをいいます。

  再転相続は、結構頻繁に起こります。両親とも高齢で、相次いでお亡くなりになってしまい、先に亡くなられた方の遺産分割協議ができていない場合とか、相続問題が決着しないまま時間が経ってしまい、次の相続が発生してしまう場合などは、よく聞く例です。

  再転相続が発生すると、協議しなければならない相続人が増えて話がまとまりにくくなったり、分からないことが増えてしまったりして、解決が難しくなってしまいます。

2 再転相続の恐さ

  再転相続が発生した場合、先に亡くなった方に大きな債務があったとしても、そのことを把握しにくい、という問題もあります(後から亡くなった方の債務の場合も、必ずしも把握しやすいわけではありませんが、類型的に、より把握しにくいことが多いと思われます。)。

3 近時の最高裁の判決

  これに関し、再転相続が発生した場合に、相続の承認又は放棄をすべき熟慮期間の起算点をどのように考えるかについての判決が、最高裁でなされましたので、ご紹介します(最高裁判所令和元年8月9日第二小法廷判決)。

  この件では、Aさんの伯父が借金を残して死亡し、伯父の妻・子の相続放棄により、Aさんの父が伯父の相続人となったものの、Aさんの父は、そのことを知らず相続放棄もしないまま、数か月後に死亡してしまいました。Aさんは、Aさんの父が死亡したことについては、Aさんの父の死亡から間もなく知りました。しかし、Aさんの父がAさんの伯父の相続人であり、AさんがAさんの父からAさんの伯父の相続人としての地位を承継していたことを知ったのは、3年後、Aさんの伯父の債権者がAさんに対して強制執行の申立てをし、裁判所から執行文等の送達がなされた時でした。Aさんは、この時から3か月以内に相続放棄をし、それを理由に、執行文付与に対する異議の訴えを起こしました。本件は、その件の上告審ということになります。

  これについて、最高裁は、「民法916条にいう「その者の相続人(Aさん)が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者(Aさんの父)の相続人(Aさん)が、当該死亡した者(Aさんの父)からの相続により、当該死亡した者(Aさんの父)が承認又は放棄をしなかった相続(Aさんの伯父の相続)における相続人としての地位を、自己(Aさん)が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである」と述べた上、本件では、執行文等の送達から3か月以内に相続放棄がなされているから、当該相続放棄は、熟慮期間内になされたものとして有効であるとして、Aさんの異議を認めました。

4 判決の考え方

  被相続人の死亡から3か月を過ぎてしまった場合でも、期限内に相続放棄の手続をすることができなかった事情を説明する書面を添付して相続放棄の申述をすれば、事情次第で相続放棄が認められることがあります。上記の最高裁の判決の結論も、大雑把にいえば似たような考えに基づくものと考えられます。

  しかし、本件のようなケースについて明確な判断がなされたのは、報道によると初めてのようです。相続事例についての解説記事は多く見かけますが、本件の判決について解説した記事はまだ少ないと思われますので、ご参考にしていただきたく、ご紹介しました。

横浜の弁護士 横浜よつば法律税務事務所へのお問い合わせ 横浜の弁護士 横浜よつば税理士事務所

相続