【横浜 相続】相続分の譲渡は贈与?

2019年4月26日

 みなさん、相続の際、相続財産をいらないと思った場合は、相続放棄をまず考えますよね。ただ、相続放棄をすると、他の相続人全員の相続分が同じ割合で増えます。仮に、特定の相続人の相続分だけ増やしたいと思う場合はどうしたらよいでしょうか。例えば、夫が亡くなった際、妻が「自分は夫の財産はいらないけど、自分がもらうはずだった分を、そっくりそのまま面倒をみてくれている子どもにあげたいわ。」と考えた場合、どうしたら良いでしょうか。そういった場合、「相続分の譲渡」が考えられます。ただ、妻が、夫の相続の際、相続分の譲渡を子どもの一人にして、その後亡くなった場合、この「相続分の譲渡」が、妻の相続でどのように扱われるか、これまで最高裁では判断がなされておりませんでした。平成30年10月19日、最高裁は、これを民法903条1項の贈与であると判断しました。今回は、この判例についてお話しします。

 

 事案の概要

 父と母の子どもには、A、B、Cの3人の子どもがいました。Cの妻Dは、父と母と養子縁組をしていました。  
 父は、平成20年12月に死亡しました。法定相続人は、母、A、B、C、Dでしたが、母とDは、それぞれの相続分をCに譲渡しました。その後、母は、Cに全財産を相続させると公正証書遺言を作成しました。

 母は、平成26年7月に死亡し、法定相続人は、A、B、C、Dでした。母の相続開始時の財産は、ほとんどありませんでした。

 そこで、Bは、Cに対し、母からCへの相続分譲渡が、母の相続において、その価格を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条1項)に当たるとして、遺留分減殺請求権を行使しました。

 

 相続分譲渡が、民法903条1項の贈与に当たるかどうか争われました。

 

遺留分って?

 遺留分とは、相続に際し、相続財産の中から一定の相続人に対して、法律上必ず留保されなければならない一定の割合をいいます。

 本来、被相続人は、自分の財産を自由に処分することができるはずです。他方、相続制度は、遺族の生活保障や遺産形成に貢献した遺族の潜在的持ち分を清算するという機能も有しています。そこで、民法は、一定の相続人に対し、一定の割合を必ず留保しなくてはならないとし、かつ、遺留分を侵害された相続人が行使して初めて効力が発生するように規定しました。

 直系尊属(被相続人の父母、祖父母などです)のみが相続人の場合は、被相続人の財産の3分の1、それ以外は、被相続人の財産の2分の1が遺留分となります(民法1028条)。兄弟姉妹に遺留分は認められません。今回の家族で言えば、母の相続に際し、相続人は養子縁組したDも含め子どもが4名ですので、遺留分はそれぞれ8分の1となります。

 

民法903条1項の「贈与」って?

民法903条は、特別受益を定めた条文です。

 共同相続人の中に、被相続人から生前に贈与を受けた人などがいれば、相続に際し、この贈与を受けた相続人が他の相続人と同じ相続分を受けると、不公平になります。そこで、民法は、共同相続人間の公平を図ることを目的に、特別な受益(贈与)を相続分の前渡しとして、計算上贈与を相続財産に戻して(加算して)相続分を算定することにしています(民法903条)。これを「特別受益」といいます。この制度は、相続だけでなく、遺留分制度にも適用されます(民法1044条)。

 今回の家族で言えば、父の相続の際、母が、Cに対して相続分を譲渡していますが、これが、母の相続に際し、Cの特別受益にあたれば、母の相続財産に、Cに渡した相続分が加算されることになります。母の相続財産は、この相続分くらいしかありませんから、これを全部もらったCは、他の相続人の遺留分を侵害していることになります。他方、この相続分譲渡が、母の相続に際し、Cの特別受益にあたらなければ、母の相続財産は何もないため、Cは、他の相続人の遺留分を侵害していないことになります。

 

では、最高裁はどう判断したの?

 冒頭で書きましたように、最高裁は、民法903条1項の「贈与」にあたると判断しました。最高裁は、「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価格などを考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する『贈与』に当たる。」と判断しました。

 高等裁判所では、相続分の譲渡は、必ずしももらった人に経済的利益をもたらすものとはいえないので贈与にあたらないと判断しましたが、最高裁は、財産的価値がある場合は贈与に当たると判断しました。

 

 いかがでしたか。理由まで理解するのはなかなか難しいですが、財産的価値のある相続分の譲渡は、あとあと生前に受けた贈与とみなされることを覚えておいて、遺産分割をなさってくださればと思います。

 

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2019年4月26日相続