会社破産の流れ① ~営業停止において重要なこと~

2019年4月26日

 少し前,破産手続中の会社代表者が資産隠しをした疑いがあるとして逮捕されました。
 また,別の件ですが,破産者の代表者が本来は配当に回るべき資産を散逸させたケースにおいて,申立代理人(弁護士)の財産散逸防止義務違反を認定し申立代理人に対して損害賠償を命じる裁判例も現れています。

 経営改善のための万策が尽きた会社が破産手続へ移行するために営業を停止する際,また,そこから破産申立てをするまでの間,どのようなことをすべきで,どのような点に注意しなければならないのでしょうか。

 

 今回のテーマは,営業停止前にすべきことです。
 営業を停止せずにいきなり破産申立てというやり方もありますが,資産・負債の状況が定まらないという問題や,賃借物件や継続的契約の整理ができずに破産手続が始まることにより財団債権(一般の破産債権よりも優先して支払いが受けられる債権)が増大するなどの問題があるので,私は営業を停止してから申立準備をしてなるべく管財人が動きやすい状態に整理して申立てをするというやり方を取っています。

 

1 営業停止のタイミングの設定:費用の工面ができないと申立てができません。

 

 まずは,会社の経営状態から,どのタイミングで営業を停止して破産準備へ移行するか,水面下で見極めていく必要があります。
 ここで重要な点は,破産申立てのための費用がどのタイミングならば工面できるかという問題です。

 破産申立てのために必要な費用は,申立代理人の費用,申立準備や申立ての実費,破産管財人の報酬(及びさらに余剰があ れば債権者の配当)に回すべき最低限の引継予納金です。
 これらの費用の具体的金額は,会社の規模,負債額,申立準備のための活動内容,破産管財人の活動内容,破産手続中の資産管理・換価のために要する費用などによって絞られてきますが,完全に資金がショートしてこれらの費用が工面できない状態になってからでは遅いので,早めにご相談いただくことが必要です。
 会社について破産手続をとる費用がない場合に,やむを得ず,会社は破産手続をとらず,保証債務を負う代表者個人だけ破産申し立てをするという方法も取り得なくはありませんが,裁判所から可能な限り会社とともに破産申立てをするように言われてしまいます。じゃあどうすればいいのよという感じですが,代表者個人のみの破産申立ても受理してもらえないと,代表者個人の多額の負債の支払義務が免除されず,大変困った事態になります。
この意味でも,会社の破産申立て費用を工面することは重要な問題です。

2 従業員へ事情の説明等:情報が流出して混乱することも。

 事前に従業員に破産方針を説明すべきかは,ケースバイケースです。
 従業員から取引先・債権者などへ話が漏れる可能性があるような場合は,事前の説明には慎重になるべきです。
 解雇予告をするということは,従業員の再就職への準備のためや解雇予告手当の発生を防ぐために本来望ましいと思われますが,これも事前に情報が流出する危険が伴いますので,やはり慎重に判断すべきです。
 他方,いずれにしても営業停止となる段階で従業員は解雇することとなりますから,その後の失業給付の受給や再就職先での社保加入のため,離職票や社保の資格喪失証明書の交付は事前に準備しておく必要があります。
 従業員への未払賃金がある場合や退職金規程がある場合には,最後に資金がある場合には払ってあげたくなる気持ちもわかりますが,破産法上,債権には財団債権・優先的破産債権・一般的破産債権といった優先順位があり,この順位が歪むおそれがあるため,余剰資産や他の債権者の状況から慎重に判断する必要があります。
 未払の賃金や退職金については,労働者健康福祉機構の立替払事業を利用することで一定額については立替払いが受けられる(破産手続開始後に破産管財人が未払額を証明してまとめて申請し立替払いを受けることが一般的な取り扱いです。)ので,従業員にその制度の案内をしてご理解いただくことにとどめるのが穏当なケースも少なくありません。
 番外編ですが,「ウチは従業員の給与の未払はないし,退職金規程もないんだけど,これまでみんな本当によく頑張ってくれたから,最後の給与の支払い時に少し多めに払ってあげたよ。」というような社長さんも過去におりました。これは,リーダーとしては素晴らしいかもしれませんが,財産を不必要に散逸させるもので,破産手続上はダメということになります。

3 債権者・取引先等への説明:やはり情報が拡散して混乱する危険性。

 従業員以上に事前の説明を控えるべき事案が多いと思います。
 営業停止により相手も急きょ新たな取引先を探さなければならない事態に陥るので,事前に説明をしたくなる気持ちもわかりますが,事前に情報が拡散してしまうと火事場泥棒的な行為が横行する事態にもなりかねません
 私が債権者・取引先への事前の連絡を禁じた事例で,営業停止後に,丁寧に債権者へ個別に詫びを入れていた社長さんもおられました。
 大変立派だと思いましたし,混乱を避けるためにはそれで良いのだろうと思います。

 次回は、営業停止後、破産申立てまでについてにすべきことを考えます。

会社破産の流れ② ~営業停止から申立てまでにおいて重要なこと~

会社破産の流れ③ ~営業停止から申立てまでにおいて重要なこと~

会社破産の流れ④ ~申立前に財産を処分する場合の注意点~

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2019年4月26日会社関係