会社破産の流れ③ ~営業停止から申立てまでにおいて重要なこと~

2019年4月26日

 こんにちは。

 

 前回,会社破産の流れ②で,申立ての準備は基本的には資料を整えることが重要であり,財産の処分は破産管財人に委ねるべきであるということをお話ししました。
 これを大前提に,今回は横道に逸れて,例外的に申立前に財産処分をするべきと考えられる場面についてお話しします。

 あくまでも例外的なお話ですが,かなりの頻度で検討課題にはなります。

 

<注意書き>
 営業を停止せずにいきなり破産申立てを行うというやり方もありますが,資産・負債の状況が定まらないこと,賃借物件や継続的契約の整理ができずに破産手続が始まることにより財団債権(一般の破産債権よりも優先して支払いが受けられる債権)が不必要に増大するなどの問題があるので,私は営業を停止してから申立準備をしてなるべく管財人が動きやすい状態に整理して申立てをするというやり方を取っています。

 

 

<1 申立前に財産換価等すべき場合1 ~時機を失することができないもの>

 

 その1として,早期に処分をしなければ後の換価に不都合が生じる場合です。

 

 例えば,食品会社の破産の場合は,消費・賞味期限の短い商品は期限前に処分しなければ価値がなくなってしまいます。

 また,要冷蔵・要冷凍の商品も,当面の管理のために申立て準備中もやむを得ず工場・店舗の電気代を払い続けるという選択肢もあり得ますが,どうしても高額になるのがネックであり,電気を止める判断をする場合にはその段階で早急に商品の処分が必要です。
 
 また,狭い取引業界内でしか価値がないものについて購入希望者がいるような場合も考えられます。
 例えば,倒産するA社の取引先のB社が,それまでA社に依頼していた仕事を今後は自前で行うこととし,そうはいっても新品の設備を1から整えるのはコストがかかるから,倒産するA社から設備を購入したいという要望があったようなケース。
 当該設備に汎用性がないとしたら,この機会を逃せば買い手はなく価値はゼロ,逆に莫大な処分費がかかることも想定されます。
 このように,取引先が別から設備を整える前に適時に売却する方がより全債権者のためになると判断すべき場合もありえます(判断としては怖いですが。)。

 

 ほかには,会社が約束手形を保有していて,支払期日が迫っている場合は,当然,徒過しないよう支払を受けたり割り引いたりもらう必要があります。

 

 あとは,非常に細かいですが,信用金庫から出資金について申立前に脱退してほしいと依頼されることがあります。
 申立前に任意に脱退すると,1ヶ月ほどで換価が済みます。
 任意脱退をせずに破産手続が開始すると法定脱退となり自動的に換価手続に移行しますが,換価には年1回開催の総代会の決議が必要で,手続が長期化することが多いのです。破産管財人に「次の総代会までは待てないけど,破産財団だし…。」と悩ませないよう,信用金庫から要請があれば協力するようにしています。

 

<2 申立前に財産換価等すべき場合2 ~放置したのでは破産手続開始後に債権が生じてしまうもの>

 

 会社所在地・事務所・店舗・駐車場が賃借物件である場合は,そのままでは破産手続開始後解約をするまでの間,賃料が発生してしまいます。
 しかも,この期間の賃料は財団債権といって優先順位の高いものであるため,賃借物件について賃貸借契約を終了させ明け渡しをせずに申立てを行うと,貴重な会社財産(破産財団と言います。)がこういった財団債権の支払に充てられてしまい,他の一般破産債権者が配当を受けられるか否か,配当を受ける金額に影響します。
 したがって,賃借物件は極力明け渡しを行った上で申立てをすべき要請があります。
 そして,賃借物件を明け渡さなければならないということは,賃借物件内に存する機材・什器備品・車両もまた処分しなければならないということにもつながってきます。これらも会社の財産ですから,適切に処分する必要があります。
   
 また,財産の処分ではありませんが,会社名義の電話や光熱費の契約による債権も同様に破産手続開始後に発生したものは優先的な扱いを受けるので,申立の準備や管財人の活動上必要なものを除いて契約を終了させます。その1で述べたように,例えば要冷蔵・要冷凍の商品がある場合は,処分して電気を止めるか,電気を止めないで保管するかの判断を申立前に迫られることになります。

 

<3 申立前に財産換価等すべき場合3 ~申立費用を工面しなければならない場合>

 

 支払不能状態に陥った会社といえども,破産手続の申立てが無償でできるわけではありません。

 会社の破産手続では,必ず破産管財人が選任されるため,その破産管財人の報酬と,破産管財人が破産財団を調査・管理・処分する費用(引継予納金といいます。)については,申立て時に準備をする必要があります。
 この引継予納金は,弁護士が代理人となった申立ての場合最低でも20万円は必要であるほか,債権者・負債総額が大きい場合や破産管財人の事務処理の難易,破産財団の管理処分にかかる費用の多寡により,裁判所からさらに高額の引継予納金を求められることもあります。
 また,破産申立てを弁護士ほか代理人に依頼する場合には,引継予納金とは別にさらに費用が必要です。これも申立前にご準備いただく必要があります。
 これらの費用が会社内に残った状態で営業を廃止できればよいのですが,そうでない場合,破産申し立てをするには会社の財産を処分してでも費用を捻出するほかありません。
 このようなことから,やむを得ず会社の財産を申立前に処分しなければならないというケースもあります。

 

 

<4 申立前に資産処分をする際の注意点~全債権者の利益に資すること>

 このように,申立前の処分の必要性がある場合,処分方法が適切である限り許されると考えられます。
 では,どのような場合に適切と呼べるでしょうか。
 破産とは,平たく言えば会社の財産を換価して債権者に少しでも満足を得てもらう手続ですし,破産管財人もこのような立場で活動をします。
 ですので,破産管財人の手によらなくても債権者の利益を害さずに処分をしたと合理的に説明できれば,適切に処分をしたと呼べると思います。
 すなわち,破産手続開始後に破産管財人がその財産を処分した場合と比較して,同程度以上の価値で財産を処分することができた,早く処分したことでその財産の価値を損なわずに済んだ,その財産の管理費用を免れることができた,ということが,債権者・裁判所・破産管財人に合理的に説明できることが必要です。

 

 

 次回は,適切な処分のために必要な手順と,その他注意すべき点をご紹介します。

 

 

こちらもよろしくお願いします。

会社破産の流れ① ~営業停止において重要なこと~

会社破産の流れ② ~営業停止から申立てまでにおいて重要なこと~

会社破産の流れ④ ~申立前に財産を処分する場合の注意点~

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