会社破産の流れ④ ~申立前に財産を処分する場合の注意点~

2019年3月7日

 こんにちは。

 前回は,例外的に破産申立前に財産処分を検討すべき場合についてご紹介しました。
 今回は,いざ申立前に財産処分をする場合の注意点を検討したいと思います。
 ご依頼を受ける直前に既に大きな財産が処分されていることもありますが,なかなかドキッとします。

 

<注意書き>
 営業を停止せずにいきなり破産申立てを行うというやり方もありますが,資産・負債の状況が定まらないこと,賃借物件や継続的契約の整理ができずに破産手続が始まることにより財団債権(一般の破産債権よりも優先して支払いが受けられる債権)が不必要に増大するなどの問題があるので,私は営業を停止してから申立準備をしてなるべく管財人が動きやすい状態に整理して申立てをするというやり方を取っています。

 

 

<1 査定書面を複数とり,高く売る,安く処分する> 

 

 財産処分は破産手続開始後に破産管財人が行うのが原則です。
 破産管財人は,処分条件について必要に応じて裁判所と協議しながら処理を進めていきますし,財産の価額によっては処分前に裁判所の正式な許可を得る必要があります。
 このように,破産管財人による処分にはその適正が担保されていますが,申立前に申立人(破産する会社自身やその代理人)が処分する場合は何の後ろ盾もありません。何の後ろ盾もない我々がした処分が適正といえるためにはどのようにすべきでしょうか。
 この点,破産手続において大きな利害関係をもつ債権者は配当を受けるなどして金銭的な満足を受けることになりますから,債権者の一番の関心は,当該財産が本来あるべき評価以上で処分されたのかどうかという点にあります。
 ですから,申立前に処分する場合は,それによって,破産手続において破産管財人が処分をしたのと同等あるいはそれ以上の経済的利益を生み出した(もしくは経済的損失を食い止めた)と評価されることが必要です。
 そこで,処分する財産について第三者による評価が可能な場合は,必ず処分前に査定書を複数準備します。破産管財人が処分の適性を検討する上で重視するのが本来の市場の価額ですから,これは必須のものです。
 査定の取り方ですが,まず,査定を取ってもらう業者は,可能であれば,リサイクル業者などの一般的な動産買取業者よりも,当該資産が流通する業界の業者の方が望ましいと思います(なかなか難しいですが。)。
 次に,例えば,事務所の什器備品,工場の機材など複数の財産を査定してもらう場合には,「ここにある一切合切で合計いくら。」という漠然としたものではなく,直近の減価償却明細書等を参考になるべくひとつひとつの動産について個別の買取金額(処分に費用がかかるならばその額)を出してもらう必要があります。
 そして,口頭や簡単なメモ程度では原則として不十分であり,書面にしてもらう必要があります。
 なお,当該財産の処分前の状態を写真で残しておくと,破産管財人もイメージがしやすいのか,喜ばれることが多いです。
 さらに,処分までに紆余曲折があった場合には,上記の資料に加えて,処分の経緯をまとめた報告書を作成することも検討すべきです(我々が作成することもありますし,仲介業者等にお願いすることもあります。)。
 このように,複数の業者から細かい査定書を準備した上で,高く売れるところ,処分費が安いところに,後で資料とともに説明がつけられる形で処分することが鉄則です。

 

<2 代物弁済・反対債権との相殺は絶対NG>

 

 財産の取得を希望する相手が債権者である場合,当該財産を債権の代物弁済として受領しようとしていたり,売買は売買だけれども代金と既存の債権とを相殺しようとしていたりすることがあります。

 当然に代物弁済として取得できる,売買代金と債権を相殺処理できる,火事場だったらまかり通ると考えている債権者はいます。お気持ちは当然です。
 しかし,これでは本来破産手続において換価され全債権者のための配当の原資となるべき財産が,特定の債権者のためだけに処分されたことになりますから,絶対にNGです
 また,破産することを知りながら財産を買い取った債権者も,手続開始後に破産管財人から,当該財産を返還せよ,あるいは,財産の適正価額をきちんと支払えと厳しく追及されます。
 ですので,適正な代金を実際に現金で支払っていただく必要があり,この条件は交渉の冒頭で買取希望者にことわり,予め了承を得なければなりません。
 
<3 処分代金の管理を厳重に>

 

 財産処分後は,現金ができます。
 すると,迷惑をかけた取引先,最後まで頑張ってくれたが賃金を払えていない従業員に分配してあげたい,自分の生活費を補てんしたい,といったお気持ちが出ます。
 ですが,この現金はもはや会社や社長さんの自由になる資産ではなく,全ての債権者のために破産管財人に引き継ぐべき資産だと考えていただかなければなりません。
 処分方法が適切であってもその後の管理が杜撰では意味がありませんので,総債権者の利益を害する形で会社資産を流用することは控えなければなりません。
 その財産をもとに元従業員たちとこっそり新会社を立ち上げるなど,もってのほかです(これができないかというご質問が意外と多いです。)。
 代表者も収入がなくなり経済的に困窮していることは重々承知の上ですが,可能であるならば早期の再就職をお願いしています。

 

 また,よく,相談の段階でこちらから事前に引継予納金(破産管財人へ引き継ぐことを求められている現金。会社の流動財産や処分財産の対価から工面します。)の目安となる金額をお伝えしていると,それさえ用意できればあとの会社財産は自由に処分・費消して構わないと誤解される方もおられますが,事前にお伝えする金額はあくまでも「このぐらいないと申立てが裁判所に受理されない」だろうという最低金額であって,財産処分等により結果的にそれ以上の資金が残ったならば,それは債権者の利益のために全て引継予納金としなければなりません。    

 

<4 処分することに時間をとられ,別の問題が生じないようにする>

 

 他方,財産を申立前に処分しようとすれば,本来書類の整理だけでよかった申立てに時間を取られるようになり,それだけ申立てが先延ばしになります。
 そこで,この過程で,早期に申立てをしていれば生じなかった別の問題が発生してしまうことがあるので,たとえ申立前に財産を処分する必要があっても,これらの問題と比較衡量してリミットを設けて活動する必要があります。

 

(1)国税の滞納処分

 例えば,まず国税の滞納処分(差押え)。

 
 国税滞納処分により差押えがされている場合は、当該財産を他の債権者よりも優先的に滞納している国税に充当することができます。

 そして,破産手続開始決定後は国税の滞納処分をすることができませんが,破産手続開始決定前に国税滞納処分が既にされている場合は,破産手続開始後も滞納処分を続行することができます(※)。

 つまり,早期に申立てをしていれば全債権者の満足に充てられるべき財産が,滞納処分によって特定の債権者が優先権をもつことになるため,その影響で不利益を被る債権者が出ることがあります。 

 したがって,破産手続開始前に財産処分のために時間を要する場合は,常に滞納処分と隣り合わせのなか処理していくことになります。

 

※ 他方で,一般の債権者が仮差押え・差押えをしても,その効力は破産手続開始によって消滅します。

 

(2)従業員の権利

 また,従業員の未払い給与がある場合,破産手続開始前3カ月間の給与は財団債権として優先的に扱われていますが,これを過ぎると優先的破産債権となり,一段優先度が落ちてしまいます
 加えて,未払賃金の立替払制度利用の要件として,従業員の退職後6ケ月以内に破産手続開始決定がされることが必要となりますから,申立てがずれ込むと,元従業員が未払賃金の立替払いを受ける権利を失うことになります(退職後6ヶ月という要件にかかわらず,一刻も早く未払賃金の立替払いを受けたいと願っている元従業員の方もいますので,その意味で,可及的速やかに申立てをする必要があるのは当然です。)。
 このように,破産申立ての準備に時間がかかると,破産手続上の元従業員の地位が弱まったり,権利を失うことになるので,この点も睨みながら活動しなければなりません。

 

(3)消滅時効の完成

 あとは,消滅時効などの問題もあります。営業を廃止した時点で既に一定の時効期間が経過している財産(売掛金・貸付金など。)があると,申立前に別の財産の処分に時間がかかりすぎてその財産の消滅時効が完成してしまうということもあり得るでしょう。商品代金・請負代金など,現行民法では時効期間が短いものもあります

 

<5 まとめ>

 

 このように,営業廃止から申立てまでに財産を処分する場合でも,全体の債権者の利益のために処分の適正が重要となること,処分の過程でも他の問題は日々発生・進行していくことから,全体を見ながら進めなければならないことという点がポイントとなります。

 かなり脱線してここまで来ましたので,次回は軌道修正をして,申立後に行うべきことをご紹介できればと思っております。

 では。

 

 

こちらもよろしくお願いします。

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